大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)228号 判決

仙台市青葉区川内(番地なし)

原告

財団法人半導体研究振興会

右代表者理事

岡村進

右訴訟代理人弁理士

深沢敏男

添田全一

東京都千代田区霞が関三丁目四番三号

被告

特許庁長官 深沢亘

右指定代理人

丸山光信

今井健

宮崎勝義

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

「特許庁が昭和六〇年審判第六八四六号事件について昭和六三年八月二五日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。一との判決

二  被告

主文同旨の判決

第二  請求の原因

一  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和五四年二月一日名称を「電力送電システム一とする発明(以下「本願発明一という。)について特許出願(昭和五四年特許願第一一二八九号)をしたが、昭和六〇年二月八日拒絶査定を受けたので、同年四月一七日これを不服として審判の請求をした。特許庁は、右の請求を昭和六〇年審判第六八四六号事件として審理した結果、昭和六三年八月二五日「本件審判の請求は、成り立たない。一との審決をした。

二  本願発明の要旨

第一の大電力用交流電源5を第一の静電誘導サイリスタを具備した周波数変換装置6により交流電源の周波数よりも高い周波数に変換し、次段に設置した第一の変圧器7により所望の電圧に昇圧した高周波電力を、直流に変換する第二の静電誘導サイリスタを具備する整流装置8に接続し、この直流大電力を遠距離送電する直流送電線に接続し、受電端で第三の静電誘導サイリスタを具備した周波数変換装置9により第一の大電力用交流電源5より周波数の高い高周波電力に変換し、その高周波電圧を第二の変圧器10により降圧し、次段に第四の静電誘導サイリスタによる周波数変換装置11によって大電力交流電源12に変換することを特徴とする電力送電システム(別紙図面一参照)。

三  審決の理由の要点

1  本願発明の要旨は前項記載(特許請求の範囲第1項の記載に同じ。)のとおりである。

なお、「大電力交流電源12一の周波数は、「第一の大電力用交流電源5」の周波数と同様、五〇Hz又は六〇Hzの商用周波数であると解するのが相当である。

2  当審の拒絶理由Iにおいて引用した町田武彦著一直流送電一(昭和四六年東京電機大学出版局発行、以下「第一引用例」という。)の三一頁には、図2・7(別紙図面二参照)を参照すると、次の電力送電システムが記載されていると認められる。

第一の大電力用交流源を、第一の「主変圧器〈1〉」により所望の電圧に昇圧し、「サイリスタバルブ」等からなる「主バルブ〈イ〉」を具備する第一の「変換装置〈14〉」により直流に変換し、この直流大電力を「直流線路〈9〉」により遠距離送電し、受電端で、「サイリスタバルブ」等からなる「主バルブ〈イ〉」を具備する第二の「変換装置〈14〉」により交流に変換し、第二の「主変圧器〈1〉」により降圧して第二の大電力用交流電源に変換する電力送電システム。

3  同様に引用した特開昭四八-七六九三号公報(以下一第二引用例一という。)(別紙図面三参照)には、

「三相給電網RST一の「給電網電圧の周波数」を、「整流器1」と「インバータ2」からなる「周波数変換器」により「給電網電圧の周波数よりも」「高い」「周波数」に変換し、「高圧変圧器3」により所望の電圧に昇圧する「高電圧発生器」であって、「高圧変圧器3は給電網電圧に対して一「高い周波数で動作するので、その鉄心は小形に構成することができる」ことが記載されており、

4  したがって、電圧を変圧する変圧器を、高い周波数で動作させることにより、該変圧器を小形にすることができるという第一の技術的思想と、スイッチング素子を具備した周波数変換装置を用いることにより、交流電圧を所望の周波数の交流電圧に変換することができるという第二の技術的思想が記載されていると認められる。

なお、同様に引用した特開昭五一-四六四四号公報にも、第二引用例に記載された前記第一、第二の技術的思想が記載されていると認められる。

5  更に、同様に引用した特開昭五二 五〇一七五号公報(以下「第三引用例」という。)には、

「スイッチング時間が」「短縮できる事による超高速化」、「大電力化及び高能率化」、「直流しゃ断が行なえる」という特徴を有し、「インバータ」のスイッチング素子として用いることができる「静電誘導サイリスタ」(別紙図面四参照)が記載されていると認められる。

6  本願発明の「電力送電システム」と第一引用例に記載された発明の「電力送電システム」を比較対照すると、前者の「第一の大電力用交流電源5」、「第一の変圧器7」、「整流装置8」、「直流送電線」、「周波数変換装置9」、「第二の変圧器10」、「大電力交流電源12」は、それぞれ、後者の「第一の大電力用交流電源」、「第一の『主変圧器〈1〉』」「第一の『変換装置〈14〉』」、「直流線路〈9〉」、「第二の『大電力用交流電源』」と同義ないし等価であり、前者の「第二の静電誘導サイリスタ」「第三の静電誘導サイリスタ」は、それそれ後者の「サイリスタバルフ」に包摂されると認められるので、結局、両者の一致点と相違点は以下のとおりであると認められる。

7  一致点

「第一の大電力用交流電源5を」、「第一の変圧器7により所望の電圧に昇圧した」「電力を、直流に変換する」「サイリスタバルブ」「を具備する整流装置8に接続し、この直流大電力を遠距離送電する直流送電線に接続し、受電端で一、「サイリスタバルブ」「を具備した周波数変換装置9により」「交流」「電力に変換し、その」「電圧を第二の変圧器10により降圧し、」「大電力交流電源12に変換する」「電力送電システム」である点。

8  相違点

〈1〉「第一の変圧器7」及び「第二の変圧器10」により変圧される電圧の周波数を、前者が商用周波数よりも高い周波数にしているのに対して、後者は商用周波数にしている点。

〈2〉「第一の大電力用交流電源5を」、「第一の変圧器7により所望の電圧に昇圧」する際、前者が「周波数変換装置6」を介在させているのに対して、後者は何も介在させていない点。

〈3〉「周波数変換装置9」の出力電圧の周波数を、前者が商用周波数よりも高い周波数にしている点。

〈4〉「第二の変圧器10により降下し」、「大電力交流電源12に変換する」際、前者が「周波数変換装置11」を介在させているのに対して、後者は何も介在させていない点。

〈5〉各「周波数変換装置」及び「整流装置8」が具備する「サイリスタバルブ」として、前者は「静電誘導サイリスタ」を採用しているのに対して、後者はその型を明示していない点。

9  したがって、本願発明は、第一引用例に記載された前記発明の「電力送電システム」において、

〈1〉「第一の変圧器7」及び「第二の変圧器10」により変圧される電圧の周波数を、商用周波数よりも高い周波数にし、それを実現するため、

〈2〉「第一の変圧器7」の前段にスイッチング素子を具備した「周波数変換装置6」を介在させて、「第一の大電力用交流電源5」の商用周波数よりも高い周波数に変換する、と共に、〈3〉「第二の変圧器10」の前段に設置されている「周波数変換装置9」の出力電圧の周波数を商用周波数よりも高い周波数にし、かつ、〈4〉「大電力交流電源12」の前段にスイッチング素子を具備した「周波数変換装置11」を介在させて、商用周波数よりも高い周波数の電圧を商用周波数の電圧に変換し、更に、〈5〉各「周波数変換装置」及び「整流装置8」が具備する「サイリスタバルブ」ないしスイッチング素子として、「静電誘導サイリスタ」を採用して発明をすることができたものであると認められる。

10  前記操作〈1〉ないし〈5〉の容易性について以下審究する。

(一) 前記操作〈1〉について

電力送電システムにおいて、その主要装置である変圧器の効率を向上させ、小形にすることは、当業者に基本的な技術的課題として周知であったし、かつ、変圧器を小形にする方法として変圧器を高い周波数で動作させるという技術的思想は、第二引用例に前記第一の技術的思想として記載されているので、第一引用例に記載された前記発明において、第二引用例に記載された前記第一の技術的思想を適用して、「第一の変圧器7」及び「第二の変圧器10」により変圧される電圧の周波数を、商用周波数よりも高い周波数にすることは、当業者に容易になし得たところである。

(二) 前記操作〈2〉及び〈4〉について

与えられた交流電圧の周波数と所望の交流電圧の周波数が異なる場合、スイッチング素子を具備した周波数変換装置を用いて周波数を変換することは、第二引用例に前記第二の技術的思想として記載されているので、第一引用例に記載された前記発明において、前記操作〈1〉を行う際、第二引用例に記載された前記第二の技術的思想を適用して、「第一の変圧器7」の前段にスイッチング素子を具備した「周波数変換装置6」を介在させて、「第一の大電力用交流電源5」の商用周波数よりも高い周波数に変換する、と共に、「大電力交流電源12」の前段にスイッチング素子を具備した「周波数変換装置11」を介在させて、商用周波数よりも高い周波数の電圧を商用周波数の電圧に変換することは、当業者に容易になし得たところである。

(三) 前記操作〈3〉について

前記操作〈3〉は、第一引用例に記載された前記発明において、前記操作〈1〉を行う際に、当業者が容易になし得たところである。

(四) 前記操作〈5〉について

「静電誘導サイリスタ」を、「大電力」用の「インハータ」等のスイッチング素子として用いることは、第三引用例に記載されているのて、第一引用例に記載された前記発明において、前記操作〈1〉ないし〈4〉を行う際、各「周波数変換装置」及び「整流装置8」が具備する「サイリスタバルブ」(これもスイッチング素子の一種である。)ないしスイッチング素子として、「静電誘導サイリスタ」を採用することは、当業者が容易になし得たところである。

11  したがって、第一引用例に記載された前記発明において、前記操作〈1〉ないし〈5〉を行って、本願発明のようにすることは、当業者に容易になし得たところである。

12  以上を総合的に判断すると、本願発明は、本出願前に当業者が第一引用例、第二引用例及び第三引用例に記載された前記発明に基づいて容易に発明をすることができたものであって、特許法二九条二項の規定により特許を受けることができないものであると認められる。

四  審決を取り消すべき事由

審決の理由の要点1は認める。同2は、「サイリスタバルブ」等からなる「主バルブ〈イ〉」とした点をのぞき認める。同3は認める、同4は争う。同5は認める。同6は認める。ただし、前者の「第二の静電誘導サイリスタ」「第三の静電誘導サイリスタ」は、それぞれ後者の「サイリスタバルブ」に包摂されると認められるとした点は争う。同7は争う。同8のうち〈2〉〈3〉〈5〉は争うが、その余は認める。同9は争う。同10ないし12は争う。審決は、次のとおり本願発明と第一引用例記載の電力送電システムとの相違点についての認定判断を誤り、かつ、本願発明の奏する効果が各引用例から予測し得ないものであることを看過し、そのために、本願発明の進歩性を否定したものであるから、審決は違法として取り消されるべきである。

1  操作〈1〉について、第一引用例に記載された電力送電システムにおして、第二引用例に記載された第一の技術的思想を適用して、「第一の変圧器7」及び「第二の変圧器10」により変圧される電圧の周波数を、商用周波数より高い周波数にすることが、当業者にとって容易になし得たことと判断した点の誤り(取消事由1)

まず、第二引用例に審決認定のとおりの記載のあることは争わないが、それをもって、第二引用例に「電圧を変圧する変圧器を、高い周波数で動作させることにより、該変圧器を小形にすることができる」という技術的思想(審決のいう「第一の技術的思想」)が開示されているとみることはできない。なぜなら、第二引用例には、「高圧変圧器3は給電網電圧に対して著しく高い周波数で動作するので、その鉄心は小形に構成することができる。」(三頁左上欄六行ないし八行)と記載されているのみで、給電網電圧、すなわち商用交流を昇圧する場合のみについて示しているだけであるからである。第二引用例には、審決のいう第一の技術的思想として抽象化できるような事項は何も示されていない。

第二引用例はX線装置に対する高電圧発生器に係るものであって、商用交流から高電圧の直流を得るだけのもので、この発生器に係る思想は、直流送電技術に対応させた場合でも、送電側の変換所についてしか適用できない。第二引用例には、高圧高周波を変圧し、正弦波の商用交流に変換すること、すなわち、直流送電の受電側での変圧については何も示していないのである。したがって、本願発明のごとく第二の変圧器10において変圧される電圧の周波数を商用周波数より高い周波数にすることが第二引用例に基づいて容易であるとみることはできない。

被告は、審決のいう第一の技術的思想が一般的な変圧器について抽出し得ることである旨主張するが、電力の大きさや周波数変換の時の電圧によって右のような技術的思想の適用の容易性も変わるものであり、また、商用周波数よりも高い周波数にするという操作〈1〉についての判断も、変換に伴う損失を実用上問題にならない程度に小さくできるか等電力送電システムの全体との関連において検討されるべきものである(のちに主張するように敢えて高い周波数に変換することは電力送電システム全体としてみたときには送電効率を低下させる要因となる。)。

2  操作〈2〉及び〈4〉について、これらにおける二種の変換を行うことが第二の技術的思想を適用して当業者が容易になし得ると判断した点の誤り(取消事由2)

(一) 審決は、まず、第二引用例には、「スイッチング素子を具備した周波数変換装置を用いることにより、交流電圧を所望の周波数の交流電圧に変換することができるという第二の技術的思想が記載されている」と認定している。しかしながら、第二引用例には、「第1図に示す高電圧発生器は三相給電網RSTから給電される整流器1を有し、その出力電圧はインバータ2に導かれる。」(二頁右上欄八行ないし一〇行)との記載及び「次に説明するように高圧整流器4は、ほぼ矩形パルス状の高電圧を供給する。・・インバータ2は、給電網電圧の周波数よりも著しく高い、殊に「乃至五KHzの間に存在する周波数の単相交流電圧を発生する。」(二頁左下欄八行ないし一四行)との記載からして、商用交流からそれよりも周波数が著しく高い交流(パルス状)を整流器とインバータにより得ることが示されているだけである。そのことを越えて、周波数の高い交流から周波数の低い交流への変換をも含めた前記審決のいう第二の技術的思想が記載されているとはいえない。第二引用例が示しているのは、整流器1で整流された低圧直流をインバータ2が商用周波数より高い矩形パルス状の交流電圧に変換することであって、高圧直流を正弦波の商用周波数の交流に変換することではない。各家庭に、パルス状の交流が供給されれば、テレビ、ラジオ等は雑音のみで受信不可能となるばかりでなく、電気機器のほとんどは故障、破損し重大な混乱を招くことは当業者にとって明らかなことである。電力送電技術においては、各家庭に供給する交流の歪み、すなわち正弦波からのずれや高周波成分の低減化が重要な点であり、パルス伏交流を供給することはあり得ない。

(二) 前述のとおり第二引用例には、審決のいう第二の技術的思想が記載されていないのであるから、この技術的思想を前提とする操作〈2〉及ひ〈4〉についての判断は誤りといわざるを得ない。

そして、第一引用例に記載された発明に第二引用例に記載された周波数変換手段を適用できるか否かについて検討してみても、第一引用例は大電力を送る直流送電技術に関するものであるのに対して、第二引用例に示された整流器とインバータとからなる周波数変換手段は電力が小さいものに適用されるものであるから、大電力を送る第一引用例に適用できるものではない。すなわち、第二引用例は前述のとおりX線装置における高電圧発生装置に関するものであるから、その所要電力は電力送電技術で扱う電力の大きさに比べればかなり小さいものである(例えば、理学電機株式会社のカタログ「ガイガーフレックスシリーズ理学/X線回析装置」・甲第一一号証によれは、X線装置としで現在我が国にある出力最大のものは九〇kWであるから、例えは、五〇〇kVというような高電圧で、かつ何千Aという大電流て行われる送電技術に比すれは遥かに小さいものである。)。また、商用周波数より高い周波数で変圧を行うと変圧器の損失(鉄損)が小さくなることは明らかである(東京電機大学出版局発行「入門電気機器I」一四〇頁ないし一四二頁・甲第一二号証)。

(三) 審決は、「大電力交流電源12」の前段にスイッチング素子を具備した「周波数変換装置11」を介在させて、商用周波数よりも高い周波数の電圧を商用周波数の電圧に変換することは、当業者に容易になし得たところであると判断しているが、第二引用例には給電網の電圧(商用交流の電圧)より周波数の高い電圧とし、それを変圧して高電圧の高周波とし、それから高電圧の直流を得ることが示されているだけであり、高圧直流から商用交流を得る過程については何も記載されていないのであるから、第二引用例に基づいても商用周波数よりも高い周波数の電圧から大電力の商用交流への変換か考えつくものではない。特に、第二引用例に示された整流器とインバータとからなる周波数変換装置に商用周波数より高い周波数の電圧をインバータ側から与えたとしても商用交流が得られるものではなく、第二引用例の回路は可逆回路てはないから「高圧ケープル16」に高圧直流を印加しても三相給電網RST正弦波に出力されないから、審決で述べているような商用周波数の電圧への変換が当業者に容易になし得たものではない。これを端的にいえは、第二引用例には第一引用例の直流送電における送電側に対応し得る技術しか示されていないのであって、受電側に対応し得る技術は全く示されていないのであるから、第一引用例の受電側に第二引用例の技術を適用する余地はないのである。

(四) 第二引用例における周波数変換手段は、低電力、小電流にのみ適用できるものであって、第一引用例における大電力を扱う送電技術に適用できるものではない。第二引用例の周波数変換手段は、整流器とインバータとからなるところ、このインバータについてはどのような構成のものか示されていないものの、本出願当時の技術水準からみて通常のサイリスタが使用されているものとみられる。しかるに、本出願前の技術水準においては(最近においてもそうであるが)、スイッチング素子を用いる周波数変換装置等では、周波数が低い領域では大電力を扱えるが、周波数が高い領域では小電力しか扱えないという二律背反の関係がある(高電圧化と変換の効率化も二律背反の関係にある。)と考えられていたのであるから、小電力を扱う第二引用例の周波数変換手段を大電力を扱う第一引用例の直流送電にそのまま適用できないのである。例えば、「日経エレクトロニクス」(一九九〇年六月四日号・五〇一号)(甲第一三号証)の二一五頁の図1には、パワー半導体デバイスの応用分野について、五〇~六〇Hzの動作周波数ては出力容量一〇MVA以上の直流送電にサイリスタ(通常のサイリスク)が用いられるが、一〇KHz~一〇〇KHzの動作周波数の応用分野ては応用装置の出力容量は一〇KVA~一〇〇KVA程度までは別の素子(GTOサイリスタ)を用いることができることが示されているたけて、素子を変えるとしても一〇MVAの出力容量を一〇KHz以上の動作用波数でもたせることがてきることは示されていない。右の図1は従来の技術常識を図解したものである。個々の素子の特性のバラツキをそろえることが困難であることや放熱対策や駆動回路が複雑化する問題を考えると、小電力しか扱えない高周波用の素子を多数直並列することにより大電力を扱うことは技術的に極めて困難である。右のごとく大電力化と高周波化並びに高電圧化と高効率化とは、いずれも二律背反の関係にあると考えられていたことを考慮すれば、低電圧、小電流にしか適用できない第二引用例の技術的思想を、受電側の「超高電圧における直流→高周波交流への変換」及び「超大電流における高周波交流→商用周波数への変換」に適用することは極めて困難というべきである。

(五) 被告は、第二引用例における「整流器1」及び「インバータ2」から一般的な周波数変換装置の発明が認識され、審決がいう第二の技術的思想が抽出し得る旨主張するが、第二引用例には、波形、周波数変換の方向及び変換時の電力容量、電圧等において極めて限定された条件での技術的思想が述べられているとみるべきであって、被告主張のように一般化し得る技術的思想が開示されているとはいえない。なお、被告は、昭和四五年一〇月当時すでに鉄道車両に用いられるモー夕の電機子チョッパ制御用として周波数が三三〇Hzで使用されるサイリスタが実用化されていた旨主張するが、そのサイリスタの容量は僅か一三〇〇V四〇〇Aであるから、これをもってサイリスタ等の半導体スイッチング素子を用いた装置が大電力を扱えることが知られていたとはいえない。

3  操作〈3〉は、第一引用例に記載された「電力送電システム」において、操作〈1〉を行う際に、当業者が容易になし得たところであるとした判断の誤り(取消事由3)

第一引用例に記載された電力送電システムにおいては、受電端で、直流大電力を第二の変換装置により交流(高圧)に変換するものであり、一方、操作〈1〉は「第二の変圧器10」により変圧される電圧の周波数を、商用周波数よりも高い周波数にするものてあるから、この両段階を結合することにより得られるものは、第一引用例の第二の変換装置で直流大電力から得た交流(商用周波数)を操作〈2〉の適用により商用周波数よりも高い周波数にすることにすぎない。つまり、第一引用例には直流大電力を交流に変換することしか示されていないのであるから、操作〈3〉の容易想到性もこれを出発点として判断するほかないのである。しかるに、第二引用例には、直流大電力を変換装置によって直接商用周波数より高い高周波電力に変換することは何ら示唆されていない。具体的にみても、第二引用例の高圧整流器4及びろ波回路14の回路へ高圧直流を逆に与えても高周波電力が得られることはない。

4  第一引用例記載の「電力送電システム」において、操作〈1〉ないし〈4〉を行う際、各「周波数変換装置」及び「整流装置8」が具備する「サイリスタバルブ」ないしスイッチング素子として、「静電誘導サイリスタ」を採用することは、当業者が容易になし得たところであると判断した点の誤り(取消事由4)

右の判断の前提として、審決は、「静電誘導サイリスタ」を、「大電力」用の「インバータ」等のスイッチング素子として用いることは、第三引用例に記載されていることを挙げているところ、第三引用例に審決認定のような記載自体があることは争わないが、第三引用例には、静電誘導サイリスタは、スイッチング時間が従来のサイリスタの1/10以下に短縮できることによる超高速化、並びに大面積化に伴うスイッチング時間増大がないため、大電力化及び高能率化に大きな特徴があること(五頁右下欄一七行ないし六頁左上欄一行)及び静電誘導サイリスタを使用すると、直流遮断が可能な点から、インバータとして従来のものに比し高速度、高能率で、使用法も簡単になるし、サイリスタチョップ制御の高精密化、大電力化、簡略化も可能となることが示されている(六頁四行ないし一五行)のみであって、具体的に変換に適用し得る電圧、周波数あるいは具体的に「インバータ」を構成したときの効率の値などについては何ら示すところがない。このため、静電誘導サイリスタを直流送電技術に適用して商用交流から高周波への変換、あるいはその逆の変換を九〇数パーセントという高い効率で行い得ること及び高圧直流を直接高周波へ高い効率で行い得ることは全く予期できないところである。特に、受電端で高圧直流を直接高周波に変換することは、第二引用例に示唆されていないのであるから、この変換に第三引用例の静電誘導サイリスタを適用することが容易に考えられるとはいえない。第三引用例には、大面積化、すなわち大電流が流せることは記載されているが、超高耐圧化が可能であることは記載されていない。また、通常のサイリスタ素子を高耐圧にすると電極間のシリコン層が厚くなり、更に抵抗が高くなって導通時の損失も増大し、効率が低下する。すなわち、通常のサイリスタ素子の耐圧と動作周波数との関係及び耐圧と導通時の損失とはいずれも二律背反の関係にあるのである。したがって、周波数変換装置等に静電誘導サイリスタを用いることが当業者の容易になし得たことということはできない。

5  本願発明は、第一引用例ないし第三引用例から予測し得ない顕著な効果を奏するものであるから、効果の点からみても、各引用例に基づいて容易になし得る発明とはいえないこと(取消事由5)

(一) 本願発明は、直流電力送電システムにおいて、変換装置のコスト(建設費)と変換装置の変換効率(電力損失量)とをともに考慮したうえで、送電端で交流を昇圧する際及び受電端で降圧する際に、〈1〉その変圧を高周波交流の状態で行わせ、かつ〈2〉送電側での交流-高周波交流、受電端での高周波交流-交流の変換を静電誘導サイリスタによって行わせることにより、(イ)その変圧に用いる変圧器を小型化するとともに、(ロ)前記変換に必然的に伴う損失を実用上問題にならない程度に極めて小さくできたものである。すなわち、静電誘導サイリスタを用いる変換効率は九〇~九九パーセント(本願明細書一九頁八行ないし一〇行)であるから、送電側及び受電側を合わせたこの変換段階だけでも九八バーセント以上の効率を得ることが可能であり、このために変圧器の小形化のためにこの変換段階を敢えて設けても送電効率がさほど低下することはない。変圧器の効率は小形化すれば低下するものであり、かつ、商用周波数より高い周波数で変圧効率が最大となり更に高くすると変圧効率が落ちるものであるところ、本願発明では「効率が最も良い周波数で昇隆圧が出来る」(本願明細書九頁一九行ないし二〇行)ので、その点からも、変圧器における損失の改善があるといえる。また、本願発明は、高周波交流-直流、直流-高周波交流の変換にも静電誘導サイリスタを用いており、それの変換効率は九七パーセントである(半導体研究所報告二四巻二九頁・甲第一〇号証参照)から、電力送電システム全体としてみても(直流送電線路における損失は線路の長さなとによって変わるので、その点を除いた変換所における変圧効率をも含めた変換効率)、実用に適する高い送電効率を得ることができるものである。

(二) これに対し第一引用例には交流-直流送電、直流送電、直流-交流変換からなり、その変換に従来のサイリスタを用いた電力送電システムが記載されているだけである、また第二引用例には交流を整流器とインバータとからなる周波数変換器により高周波に変換し、この高周波を変圧器によって高圧にし、その高圧高周波を高圧整流器で直流に変換することが示されているが、前記周波数変換器のインバータについては具体的説明がないから、それは通常のサイリスタが使われた従来からのインバータであると解されるところ、従来からのサイリスタインバータにおける変換効率は、「東芝レヒュー」(一九七五年三〇巻二号)八八頁の表1に示されているように八〇パーセント以上であるから、仮に受電端にもこの装置が使われたとしても(用いられないことは後述する。)、送受電端両方合わせた変換効率は六四パーセント以上ということになり、極めて低いものとなる。そして、第一引用例に第二引用例の技術を適用したとしても、変圧器を小型化できるという利点が得られるものの、更に送受電端における交流-高周波の変換効率を考慮すると(全体として四回にわたる変換効率)、四一パーセント以上となり、送電効率は極めて低くなる。つまり、全体としての効率を考慮するならば、交流-高周波の変換はなるべく行わないことが好ましいことであることは当業者が容易に理解できることである。

ところで、電力の送電においては、ギガワット規模の大電力を扱う関係で、送電効率の僅かな高低が電力コストを左右し、電力会社の利益を大幅に変えるものであり、現実には送電効率の〇・一~〇・二パーセントの改善に電力会社は努力しているので、変圧器を小形化できる利点があったとしても、送電効率を五〇パーセント以上も悪化させるような技術(高周波変換)の適用を考えることは全くあり得ないことである。また、第三引用例には静電誘導サイリスタが記載されているが、第三引用例には交流-高周波交流等の変換装置もしくは回路に静電誘導サイリスタを用いた場合の変換効率については何ら示唆するところがない。

したがって、第一引用例ないし第三引用例の記載をみても、「変圧器を小形化するとともに、変換装置における変換効率(電力損失量)を実用上問題にならない程度に極めて小さくてきるという本願発明の奏する効果を予測することはできない。

第三  請求の原因に対する認否及び主張

一  請求の原因一ないし三の事実は認める。同四の主張は争う。

二  被告の主張

1  取消事由1について

第二引用例には、原告も認めるとおり「高圧変圧器3は給電網電圧に対して」「高い周波数で動作するので、その鉄心は小形に構成することができる」と記載されており、「高圧変圧器3」が電圧を変圧するものであって、その鉄心を小形に構成することができれば変圧器全体をも小形にできることが自明であることを考慮すれば、第二引用例に「電圧を変圧する変圧器を、高い周波数で動作させることにより、該変圧器を小形にすることができる」という審決のいう第一の技術的思想が開示されていることは明らかである。第二引用例に「X線装置に対する高電圧発生器」に係る発明が記載されていることは原告主張のとおりであるが、この「高電圧発生装置」も、一般的な変圧器の発明が存在してはじめて成り立つものである。変圧器というものが一般に、大電力用にも、電圧を下げる降圧用にも使用可能なものであることは、当業者に周知なことである。したがって、第二引用例は、このような一般的な変圧器の技術を前提として、その容量を小電力用にし、かつ電圧を上げる昇圧用に限定して「高圧変圧器3」にしたうえで、X線装置用の「高電圧発生器」の発明を構成したものであることは、第二引用例をみる当業者に自明なことである。そうであれば、X線装置用の「高電圧発生器」を構成する「高圧変圧器3」であっても、それを一般的な変圧器の発明として認識し、抽出し得ることは明らかである。 したがって、第二引用例における前記の記載についての一般的技術手段として抽出できないとする原告の主張は失当である。

第二引用例の「高圧変圧器3」が、X線装置用の「高電圧発生器」の発明を構成するものであるとしても、「高圧変圧器3は給電網電圧に対して」「高い周波数で動作するので、その鉄心は小形に構成することができる」との記載から、当業者であれば、「変圧器を、高い周波数で動作させることにより、該変圧器を小形にすることができる」という一般的な変圧器についての技術的思想を理解できることは明らかである。この審決のいう第一の技術的思想が一般の変圧器について適応されることと認識される以上、これを、大電力用変圧器にも、降圧用変圧器にも適用できることは明らかであるから、第一の変圧器(主変圧器〈1〉)(送電側)については勿論、第二の変圧器(主変圧器〈1〉)(受電側)にも適用し得ることを当業者は容易に理解できる。

2  取消事由2について

第二引用例に、三相給電網RSTの給電網電圧の周波数を、整流器1とインバータ2からなる「周波数変換器」により給電網電圧の周波数よりも「高い周波数に」変換することが記載されていることは原告も認めるところであるが、右の「インバータ2」がスイッチング素子を具備すること、「給電網電圧」が交流電圧であることは、いすれも当業者に自明のことであり、かつ「インバータ2」の出力が交流電圧であることは原告の指摘する第二引用例の記載のとおりである(第二引用例二頁左下欄一二行ないし一四行)。したがって、第二引用例には、審決のいう第二の技術的思想、すなわち、スイッチンク素子を具備した周波数変換装置を用いることにより、交流電圧を所望の周波数の交流電圧に変換することができる、という技術的思想が開示されていることは明らかである。第二の技術的思想である周波数変換装置を、第二引用例の「X線装置に対する高電圧発生器」の整流器1及びインバータ2から、一般的な周波数変換装置の発明として認識し、抽出し得ることは、第一の技術的思想を第二引用例から抽出し得たのと同じ理由で、明らかである。

なお、一般的な周波数変換装置が、送電技術の分野で用いられること、任意の周波数からそれと異なる任意の周波数に変換することができるものであることは本出願前に当業者に広く知られていたところである。

電気学会編「チョッパ制御ハンドブック」(昭和五一年六月一五日電気学会発行)(乙第四号証の一ないし三)には、昭和四五年一〇月当時すでに鉄道車両に用いられるモータの電機子チョッパ制御用として、周波数が三三〇Hzで使用されるサイリスタが実用化されていたことが記載されている(二二八頁及び二二九頁)し、甲第一三号証の図1(パフー半導体デバイスの応用分野一覧)をみても、商用周波数より高い周波数においても大電力を扱っていることが示されている。なお、原告は、本願発明の特許請求の範囲にいう「(商用周波数)よりも高い周波数」の領域について一〇KHz以上を強調ずるが、本願発明の構成における動作周波数の領域は商用周波数よりも高い周波数の全領域てあって、一〇KHz以上というのはその領域の一部にすぎない。

また、原告は、個々の素子の特性のバラツキをそろえることが困難であることや放熱対策や駆動回路が複雑化することから、小電力しか扱えない高周波用の素子を多数直並列することにより大電力を扱うことは技術的に困難である旨主張する。右の「高周波」について原告主張のように限られた領域のものと解されないことはすでに指摘したとおりであり、商用周波数より高い三三〇Hzの周波数でサイリスタ素子を直並列接続することにより、サイリスタ素子の電力容量よりも大きな電力を扱うようにすることが前掲乙第四号証の電機子チョッパ制御装置として採用されているし、高電圧大電流に耐えられないサイリスタ素子を多数個採用することにより、高電圧大電流に耐えられるようにすることは当業者に広く知られたところである(第一引用例と同じ刊行物の四一頁末行ないし四二頁末行及び図2・20・乙第五号証の二参照)。したがって、本出願前の技術水準においては、スイッチング素子を用いる周波数変換装置は、商用周波数より高い周波数の領域では小電力しか扱えないと考えられていたとする原告の主張は当たらない。

3  取消事由3について

第一引用例に記載された発明である直流電力送電システムにおける「第二の変換装置〈14〉」が、直流電力を交流電力に変換するものであることは原告も認めるところであり、その第二の変換装置〈14〉が第二引用例に記載された「インバータ2」と同義であることば当業者に自明のことである。すなわち、第二の変換装置〈14〉を構成する「サイリスタバルブ」等からなる「主バルブ〈イ〉」のスイッチング周波数を適宜選択することにより、そこから出力される交流電力を任意の周波数に設定できることは、当業者に周知のことである。第一引用例に記載された直流電力送電システムを、別の観点からみると、周波数変換装置としての機能を有することも周知のことである。直流電力送電システムにおいて直流線路の長さを零としたものが、電力用の周波数変換装置として実用化されていた(五〇Hz系と六〇Hzとの連系を行っていた佐久間周波数変換所の例)ことは当業者に周知なことである。これらのことからみても、第二の変圧器10により変圧される電圧の周波数を、商用周波数より高い周波数にするとき、その第二の変圧器10により交流電圧に供給する第二の変換装置の出力周波数を、直接商用周波数よりも高い周波数とすることは、当業者にとって容易になし得たところである。前述のとおり第二の変換装置に出力周波数の選択機能があることが明らかであるのに、敢えて第二の変換装置の出力周波数を一旦商用周波数に設定したうえ、更に周波数変換装置を用いて、それよりも高い周波数を得るようにするという原告の主張は、技術常識からみても考えられないことである。

4  取消事由4について

第三引用例には、原告指摘のとおり「静電誘導サイリスタは、スィッチング時間が従来のサイリスタの1/10以下に短縮てきることによる超高速化、並びに大面積化に伴うスイッチンク時間増大がないため、大電力化及び高能率化に大きな特徴があること」(五頁右下欄一七行ないし六頁左上欄一行)及び「静電誘導サイリスタを使用すると、直流遮断が可能な点から、インバータとして従来のものに比し高速度、高能率で、使用法も簡単になるし、サイリスタチョップ制御の高精密化、大電力化、簡略化も可能となる」ことが示されている(六頁四行ないし一五行)のであるから、第三引用例に、静電誘導サイリスタを大電力用のインバータ等のスイッチング素子として用いることが記載されていることは明らかである。そして、第一引用例及び第二引用例に記載された発明に基づいて前記操作〈1〉ないし〈4〉を行って得られる直流の電力送電システムにおける各「周波数変換装置」及び「整流装置8」が具備するサイリスタバルブないしスイッチング素子が、いずれも大電力用のスイッチング素子であることも明らかである。したがって、サイリスタバルブないしスイッチング素子として、静電誘導サイリスタを採用することは、当業者にとって容易になし得たことである。この点に関して、原告は、静電誘導サイリスタを採用したことによる効果は予期できないことである旨主張するが、静電誘導サイリスタを使用すると「高能率化」できることが第三引用例に記載されていることは前述したとおりであり、右にいう「高能率」とは変換効率が高いことと同義と解されるので、第三引用例に記載された静電誘導サイリスタを採用すれば、変換効率が高くできるという効果は、当業者が当然に予期できることである。また、原告は、受電端で高圧直流を直接高周波に変換することは第二引用例に示唆されていないのであるから、この変換に第三引用例の静電誘導サイリスタを適用することが容易に考えられない旨主張するが、すでに述べたとおり第一引用例記載の発明における第二の変換装置から直接商用周波数より高い交流電力を出力することは当業者の容易になし得ることであるから、右の主張は前提においてすでに失当である。更に、原告は、第三引用例には静電誘導サイリスタについて超高耐圧化できることについての記載がないことを主張するが、サイリスタ素子が単強で超高電圧に耐えられなくとも、サイリスタ素子を多数個直列接続すれは直流電力送電システムでの超高電圧下でも用いられることは明らかである(本願明細書の一六頁一九行ないし一七頁二行にも、「たとえば、五〇〇KVの電圧であるとすれば、前述した五〇〇〇V以上耐圧の静電誘導サイリスタを一四〇個以上直列に接続して使用する。」と記載されている。)。そして、仮に、原告の主張するように「耐圧」と「動作周波数」と「損失」との二律背反的関係にあるとしても、本願発明が規定した「動作周波数が商用周波数よりも高い周波数」の全領域で、数千V程度の電圧で、通常のサイリスタ素子が直流電力送電システム用に全く使用てきない理由となるものではない。通常のサイリスタ素子が、直流電力送電システムにおいて商用周波数よりも高い周波数で、超高圧大電流で使用できること及び静電誘導サイリスタ素子も同様に使用できることはすでに述べたとおりである。

5  取消事由5について

審決は、第一引用例を引用して直流電力送電を行うことにより得られる電力損失の低下をはじめとする諸々の効果を、第二引用例の第一の技術的思想を引用して動作周波数を高めることにより得られる変圧器の小形化の効果を、第三引用例を引用して静電誘導サイリスタを採用することにより得られる変換高率の向上の効果を、それぞれ本願発明の進歩性の判断に当たって勘案したうえ、これらの効果が当業者にとって予想てきるものであると判断しているのである。本願発明の効果を、第一引用例記載の発明のそれと比較すると、変圧器の動作周波数を高くすることにより、変圧器が小形化でき、かつ変圧器の効率を高くすることができ、また、静電誘導サイリスタを採用することにより変換効率が向上するという効果のあることは認められる。しかしながら、変圧器の小形化と変圧器の効率の向上とは原告の主張するように二律背反的事項であり、本願明細書によっても、変圧器の小形化と変圧器の効率との関係は明らかでない。したがって、変圧器の小形化との関係における変圧器の効率の改善を本願発明の効果とすることはできない。この点に関して、原告は、「商用周波数より高い周波数で変圧効率が最大となり更に高くすると変圧効率が落ちるものである」ところ、本願発明では「効率が最も良い周波数で昇降圧が出来る」(本願明細書九頁一九行ないし二〇行)ので、その点からも、変圧器における損失の改善があるといえる「と主張する。しかしながら、右の主張は本願発明の構成に基づくものとはいえない。本願発明の構成における動作周波数は、商用周波数よりも高い周波数の全領域であって、変圧器の最も効率の高い周波数て変圧する点については、本願発明の構成要素になっていないことは、特許請求の範囲の記載から明らかである。加えて、原告の主張する「変圧器の効率が最大となる」「商用周波数より高い周波数」がどの程度の周波数なのか、「更に高くすると変圧器の効率が落ちる」のは何故なのかも含めて原告の主張するところは、甲第一二号証(東京電機大学出版局発行「入門電気機器Ⅰ」)、甲第一七号証(平成二年六月一四日発行電波新聞)及び甲一八号証(平成二年六月一八日発行日刊工業新聞)からも自明な事項とみることはできない。

第四  証拠関係

本件記録中の書証目録の記載を引用する。

理由

一  請求の原因一ないし三の事実(特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び審決の理由の要点)については当事者間に争いがない。

二  本願発明の構成及び効果

前記争いのない本願発明の要旨に成立に争いのない甲第二号証(特許願書添付の第1図)、甲第四号証(昭和六〇年四月一七日付手続補正書添付の第2図及び第3図)並びに甲第五号証(昭和六三年七月一六日付手続補正書添付の全文訂正明細書 以下「本願明細書」という。)を総合すると、本願発明は、「高効率、高性能の静電誘導サイリスタを有する新規な(直流)電力送電システムに関する」(本願明細書二頁七行ないし八行)ものであり、特許請求の範囲に記載されたとおり、商用交流を一旦静電誘導サイリスタを具備した周波数変換装置によって「交流電源の周波数よりも高い周波数に」変換し、変圧器により所望の電圧に昇圧した高周波電流を、静電誘導サイリスタを具備した整流装置により直流に変換したうえで送電し、受電端では静電誘導サイリスタを具備した周波数変換装置によって「交流電源よりも周波数の高い高周波数電力に」変換し、変圧器により降圧し、これを静電誘導サイリスタを具備した周波数変換装置によって商用交流に変換する直流電力送電システムであって、その構成上の特徴は、変圧器を小形化するために送電側及び受電側における変圧(第一の変圧器7及び第二の変圧器10)の前段階において商用交流電源よりも高い周波数に変換することにし、そのために静電誘導サイリスタを具備した周波数変換装置(送電側の第一の静電誘導サイリスタを具備した周波数変換装置6及び受電端の第三の静電誘導サイリスタを具備した周波数変換装置9)を設けるとともに、直流変換のための整流装置8と受電端において商用交流電力に変換するための周波数変換装置11に静電誘導サイリスタを採用したところにあること、並びに本願発明は各変圧の前段階において商用交流電源よりも高い周波数に変換することにより変圧器を小形化でき、また、静電誘導サイリスタを採用することにより変換効率が向上するという効果を奏するものであることが認められる。

なお、成立に争いのない甲第一二号証(東京電機大学出版局昭和四九年一〇月一〇日発行「入門電気機器Ⅰ」)、同甲第一七号証(平成二年六月一四日発行電波新聞)及び同甲第一八号証(平成二年六月一八日発行日刊工業新聞)を総合すると、変圧器における周波数の変化による鉄損は、同一電圧では周波数に反比例すること、つまり変圧器の動作周波数をある範囲内において高くすることにより変圧器の効率を高くすることができる関係にあるか、更に高い動作周波数においては逆に損失が増加することのあることが窺われるところ、本願発明は、争いのない特許請求の範囲の記載から明らかなように「(商用)交流電源よりも高い周波数に変換する」と規定されているのみであって、変圧器の最も効率の高い動作周波数で変圧することは本願発明の構成にはなっていないうえに、変圧器の小形化を実現することと変圧器の効率の向上とは二律背反的関係にあることも明らかである(成立に争いのない乙第二号証によれば、変圧器の効率は鉄心の嵩に比例することが明らかであるところ、小型化するということは、鉄心の嵩を小さくすることにほかならない。)ので、商用交流電源よりも高い周波数に変換するとしても、他方で変圧器を小形化することに伴う損失が当然生じるのであるから、本願発明における動作周波数と変圧器の効率の関係をみると、変圧器の小形化との関係における変圧器の「効率の改善」を本願発明の効果とすることはできない。たかだか、高い周波数に変換しないまま小形化した変圧器に比べれば、相対的に効率が良いといえる程度のことであって、動作周波数と変圧器の効率との間に前叙のとおりの関係があることからすれば、到底効率の改善として評価できることではない。前掲甲第五号証(本願明細書)を精査してみても、本願明細書の発明の詳細な説明欄においても変圧器の小形化と変圧器の効率との関係が明らかにされているものとは認められず、本願発明が変圧器の小形化を実現させながら、しかも、変圧器の効率を改善したものとは到底理解することはできない。

したがって、原告の本願発明の効果についての主張のうち、変圧器の小形化との関係における変圧器の効率の改善をいう点は到底採用できないし、ましてや、本願発明が変圧器の効率をも含めた電力送電システム全体における送電効率を向上させたものとは認められない。

三  取消事由についての判断

1  第一引用例(町田武彦著「直流送電」・昭和四六年二月一五日東京電機大学出版局発行)の認定については、「サイリスタバルブ」等からなる「主バルブ〈イ〉」とした点をのぞき当事者間に争いがなく、かつ成立に争いのない甲第六号証(第一引用例)によれば、「図2・7変換所の主要機器」には送電側及び受電側の各変換装置〈14〉が「サイリスタバルブ」等からなる「主バルブ〈イ〉」を具備したものであることが示されていることが認められる。したがって、本願発明と第一引用例記載の直流電力送電システムとを対比すると、両者間には審決認定のとおりの一致点及び相違点があるものと認められ(この相違点を別の形で表現すれば、審決の理由の要点9摘示のとおりとなる。)、電力送電システムの構成からみると、本願発明における「第二の静電誘導サイリスタ」及び「第三の静電誘導サイリスタ」は、第一引用例記載の直流電力送電システムにおける「第一の変換装置〈14〉」及び「第二の変換装置〈14〉」の「サイリスタバルブ」に対応するものと認められる。

2  取消事由1について

原告は、第二引用例(特開昭四八-七六九三号公開公報)に審決認定のとおりの記載のあることを認めながら、「電圧を変圧する変圧器を、高い周波数で動作させることにより、該変圧器を小形にすることがてきる」という一般的ないし抽象化された技術的思想(審決の第一の技術的思想)が開示されているとはいえない旨主張する。

成立に争いのない甲第七号証(第二引用例)によれは、第二引用例は、「X線装置に対する高電圧発生器」の発明に係る明細書ではあるが、そこには、高圧変圧器は比較的大きな寸法の鉄心をもたなけれはならなかたために大きな容積のものであったことから(一頁右下欄末から二行ないし二頁左上欄二行)、小形化のための工夫がなされており、すでに給電電圧の周波数を給電網電圧の周波数に対して高めたX線装置用の高電圧発生器が公知であり、これにより高圧変圧器を極めて小形に、かつ容易に構成することが達成されたとの記載(三頁左上欄八行ないし一一行)があること、第二引用例の発明も、給電電圧の周波数を給電網電圧の周波数に対して高い周波数に変換することにより高圧変圧器を小形化するものであることが認められ、前掲甲第七号証の第二引用例の発明の詳細な説明欄には昇圧用の高圧変圧器3について、原告指摘のとおり「高圧変圧器3は給電網電圧に対して著しく高い周波数で動作するので、その鉄心は小形に構成することができる。」と記載されているのであるから、当業者としては、第二引用例から高い周波数で動作させることによって変圧器のうちの大きな容積部分を占める鉄心を小形に構成できることから、これにより変圧器自体を小形化できるという変圧器一般に共通する技術的思想(審決のいう第一の技術的思想)を認識理解できるものと認められる(第二引用例には、右のような高い周波数で動作きせることによって鉄心を小形にすることができるという原理が、X線装置に対する高電圧発生装置に用いる昇圧用変圧器にのみ適用できる特殊なものと理解すべき何らの理由も見い出せないし、電力の大きさや周波数変換時の電圧によって、右の鉄心を小形に構成できるという技術的思想が適用できなくなるものとも認められない。)。

原告は、第二引用例に記載されたX線装置に対する高電圧発生器は、商用交流から直流を得るだけであるから、直流送電技術に対応させた場合にも、送電側の変電所についてしか適用できす、受電側での変圧については何ら開示するところがない旨主張するが、変圧器の技術において、昇圧用とするか、降圧用とするかは一次巻線と二次巻線の巻線比を変えるだけの差異にすぎず、高い周波数で動作させることによって鉄心を小さく構成できるという原理自体に差異があるものではないのであるから、昇圧用変圧器について、前記認定のような小形化についての技術的思想が開示されている以上、当業者においては、当然に降圧用変圧器にも当てはまる技術の開示として理解できるものである。更にいえは、直流電力送電システムにおいて、変圧器の小形化を意図するときには、送電側の昇圧用変圧器とともに、受電側の降圧用変圧器についてこれを考えるのが通常であるとみられるから、受電側の降圧用変圧器についても、前記の小形化の原理を適用するであろうことは見やすいところである。したがって、この点をいう原告の主張は採用できない。

そして、前掲甲第一七、一八号証によれば、電力送電システムにおいて、その主要な装置である変圧器の効率を向上させるとともに、小形化することも変圧器の技術に常に随伴する技術的課題であることが窺われるところ、この変圧器を小形化するという技術的課題を実現するために、第一引用例記載の直流電力送電システムに、第二引用例に開示された「高い周波数で動作させることによって、(変圧器のうちの大きな容積部分を占める)鉄心を小形に構成できる」という審決のいう第一の技術的思想を適用して、第一の変圧器7及び第二の変圧器10により変圧される電圧の周波数を、商用周波数よりも高い周波数にすることは、当業者が容易になし得たことというべきである。 したがって、審決の操作〈1〉についての判断には何ら誤りはない。 なお、原告は、商用周波数よりも高い周波数で動作させるとする審決のいう操作〈1〉についての判断に当たっても、高い周波数に変換する操作を置くことが電力送電システム全体としてみるときには送電効率を低下させる要因であることも検討されるべきである旨主張するが、すでに前項で認定説示したとおり本願発明は変圧器を小形化するために商用交流電源よりも高い周波数に変換することにしたものであって、本願発明は変圧器の小形化との関係における変圧器の効率の改善を実現し、これによって電力送電システム全体における送電効率を向上させたものではないから、操作〈1〉の容易想到性を判断するに当たっては、電力送電システム全体としてみた場合の送電効率を考慮することは必要のないことであり、また、送電効率の程度も確定され得るものでもない。

3  取消事由2について

原告は、第二引用例に審決認定のとおりの記載のあることを認めながら、「スイッチング素子を具備した周波数変換装置を用いることにより、交流電圧を所望の周波数の交流電圧に変換することができる」という審決のいう第二の技術的思想が記載されているとはいえない旨主張する。

前掲甲第七号証(第二引用例)によれは、第二引用例には、原告指摘のとおり「第1図に示す高電圧発生器は三相給電網RSTから給電される整流器1を有し、その出力電圧はインバータ2に導かれる。」(二頁右上欄八行ないし一〇行)との記載及び」高圧整流器4は、ほぼ矩形パルス状の高電圧を供給する。・・インバータ2は、給電網電圧の高周波よりも著しく高い、特に「乃至五KHzの間に存在する周波数の単相交流電圧を発生する。」(二頁左下欄八行ないし一四行)との記載のあることが認められる。これらの記載内容によると、第二引用例に記載されたX線装置に対する高電圧発生器においては、商用交流からそれよりも著しく高い周波数の交流(パルス状)を、整流器とインバータによって得ているものであると認められるが、整流器からインバータに与えているのは直流であるが、整流器の機能に照らしてみても、整流器に入力される交流電圧の周波数は必ずしも商用周波数に限定されるものではないことは、当業者に見やすいところであり、一方、インバータから出力される周波数は、その周波数選択素子を適宜選択することによって任意の周波数を選択できることも技術常識に属することである(第二引用例においても、インバータ2は、そのような選択をして給電網電圧の周波数より著しく高い周波数の単相交流電圧を発生させている。)。

このようにみると、第二引用例には、商用周波数よりも周波数の高い交流から商用周波数の交流への変換をも当然に含む任意の周波数の交流から、それとは周波数の異なる他の所望の周波数の交流への変換を行う一般的な周波数変換装置の技術が認識理解されるものというへきである。そして、第二引用例における整流器とインバータとの組み合わせとがスイッチング素子を具備した周波数変換装置といえることも明らかであるから、第二引用例に「スイッチング素子を具備した周波数変換装置を用いることにより、交流電圧を所望の周波数の交流電圧に変換することができる」という第二の技術的思想が記載されているとした審決の認定には何ら誤りはない。

第二引用例に開示された技術内容を、原告の主張するように、整流器で整流された低圧直流をインバータで商用周波数より高い矩形パルス状の交流電圧に変換するものという限定した態様のものとして理解しなければならない理由はない。

右のような周波数変換装置を電力送電システムの受電端の商用周波数変換に用いる場合に正弦波の商用周波数の交流に変換しなければならないことは当業者が当然の前提とするところである。

このように、第二引用例には、「スイッチンクグ素子を具備した周波数変換装置を用いることにより、交流電圧を所望の周波数の交流電圧に変換することができる」という第二の技術的思想が記載されているのであるから、第一引用例に記載された直流電力送電システムにおいて、変圧される電圧の周波数を、商用周波数よりも高い周波数にするに当たっては、送電側の変圧器の前段にスイッチング素子を具備した周波数変換装置を介在させて商用交流の周波数より高い周波数に変換するとともに、受電側においてもスイッチング素子を具備した周波数変換装置を介在させて商用周波数よりも高い周波数の電圧を商用周波数の電圧に変換することは当業者が容易になし得たことと認められる。

原告は、第二引用例に示された整流器とインバータとからなる周波数変換手段は低電圧、小電流に適用されるものであって、大電力を送る第一引用例の電力送電システムには適用てきない旨主張するが、第二引用例には前記認定説示のとおり一般の周波数変換装置に共通する基本的な技術が示されているのであり、かつ電力送電システムの技術分野においてこのような周波数変換装置が用いられていることも当業者に広く知られていることであるから、第二引用例に開示された一般の周波数変換装置に関する基本的な技術的思想を、第一引用例記載の直流電力送電システムに適用するのに格別の困難性があるとは認められない(大電力を扱うときには、その大電力応じた電力容量の装置設計を行うことは当然のことである。)。

また、原告は、第二引用例には、その周波数変換装置を第一引用例記載の直流電力送電システムに対応させてみても、受電側に対応し得る技術が全く示されていないのであるから、第二引用例の周波数変換装置を第一引用例の直流電力送電システムの受電側に適用する余地がない旨主張するが、第二引用例に開示された一般的な周波数変換装置に関する技術が直流送電システムの送電側のみならず、受電側にも適用できることは明らかであるうえに、第一引用例記載の直流電力送電システムにもみられるように、受電側には電圧を降下させる変圧器があり、この降圧用変圧器についても、送電側の昇圧用変圧器と同様に小形化、効率化の要請があることからして、第二引用例に開示された一般的な周波数変換装置を第一引用例の直流電力送電システムの受電側に適用することは当業者が容易になし得ることというべきである。

更に、原告は、第二引用例のX線装置に対する高電圧発生器の周波数変換装置は、商用周波数よりも高い周波数の領域において通常のサイリスタを用いたものとみられるが、通常のサイリスタをスイッチング素子として用いた装置は大電力を扱えなかった旨主張する。しかしながら、第二引用例に記載された周波数変換装置に用いられるスイッチング素子については特に限定はなく、通常のサイリスタに限定して理解されるべきものでもないから、この点において原告の主張はすでに失当であるが、仮に、通常のサイリスタが用いられたものとしても、例えば、成立に争いのない乙第四号証の一ないし三(電気学会編「チョッパ制御ハンドブック」・昭和五一年六月一五日電気学会発行)には、鉄道車両用のモータの電機子チョッパー制御用であるにしても、周波数が三三〇Hzという商用周波数より高い周波数で使用される大電力を扱うサイリスタが示されていることからわかるように、通常のサイリスタを用いる装置であってもサイリスタを多数直並列して接続すれば大電力をも十分に扱えるものと認められる。成立に争いのない乙第五号証の一ないし三(第一引用例と同じ刊行物の三六頁ないし四五頁)によれば、サイリスタ素子を多数個直並列に接続することにより高電圧大電流に耐えられるようにすることは当業者に周知な事項であると認められるので、サイリスタ素子の多数個直並列の接続には技術的困難性があるとする原告の主張は採用できない。取消事由2についての原告のその余の主張は、いすれも第二引用例の開示内容を極めて限定したものとみたうえ、本願発明における変圧器の動作周波数を特定の範囲のものに限定しての主張であるから、その前提において失当であり、採用の限りでない。

4  取消事由3について

第一引用例に記載された直流電力送電システムにおける第二の変換装置〈14〉は直流電力を商用交流電力に変換するものであるから、これが第二引用例の「インバータ2」と同義であることはその用語の意義に照らして明らかである。そして、第二引用例における「インバータ2」は、「給電網電圧の高周波よりも著しく高い、特に」乃至五KHzの間に存在する周波数の単相交流電圧を発生する。「ものであり、ここから出力される周波数は、その周波数選択素子を適宜選択することによって任意の周波数を選択できるという技術的思想も容易に認識できることは前記認定説示したとおりであるから、第一引用例における第二の変換装置〈14〉自体は商用周波数を発生させるものであったとしても、これを構成する。「サイリスタバルブ」等の「主バルブ(イ)」のスイッチング周波数を適宜選択することにより、そこから出力される交流を任意の周波数に選定できることは当業者にとって自明のことである。そもそも、第一引用例記載の直流電力送電システムを機能的観点からみると、周波数変換装置としての機能をもつものであるといえるのである(線路の長さを零としたものが五〇Hzと六〇Hzの変換に用いられること)。

したがって、操作〈1〉を行うとき、すなわち、受電側の降圧用変圧器で変圧される電圧の周波数を商用周波数よりも高い周波数に変換するときに、降圧用変圧器に交流を供給する第二の変換装置の出力周波数を、直接商用周波数よりも高い周波数とすることは当業者にとって容易になし得ることというべきである。第一引用例に記載された第二の変換装置〈14〉についてこれに出力周波数の選択機能をもたせることが前記認定のとおり当業者に自明なことであるから、まず、第二の変換装置によって直流から商用周波数の交流に変換した後で、周波数変換装置を用いてこれを更に商用周波数より高い周波数に変換するという原告の主張するような迂遠手段は、技術常識上も当業者が採用するところとは認められない。

操作〈3〉について、第一引用例記載の直流電力送電システムにおいて操作〈1〉を行う際に、当業者が容易になし得ることとした審決の認定判断には誤りはない。

また、原告は、第二引用例において具体的に用いられている高圧整流器4及びろ波回路14の回路へ高圧直流を逆に与えても高周波電力か得られないと主張するが、第二引用例において直流を加えて高周波電力を得るためには「インバータ2」を用いればよいのであって、原告主張のような手段は技術常識上も考えられない。

5  取消事由4について

成立に争いのない甲第八号証(特開昭五二-五〇一七五号公開特許公報)によれば、第三引用例には、静電誘導サイリスタは「スイッチング時間が従来のサイリスタの1/10以下に短縮できる事による超高速化、並びに大面積化に伴うスイッチング時間増大がないため、大電力化及び高能率化に大きな特徴があり」(五頁右下欄一七行ないし六頁左上欄一行)との記載のほか、「この静電誘導型サイリスタを使用することにより、直流遮断が可能な点から、インバータとして従来のものに比し高速度、高能率で使用法も簡単になるし、サイリスタチョッバ制御の高精度化、大電力化、簡略化も可能となる。」(六頁左上欄四行ないし一三行)との記載があることが認められる。これらの記載内容によれば、第三引用例には、静電誘導サイリスタを大電力用のインバータ等のスイッチング素子として用いることができることが十分に開示されていることは明らかである。他方、第一引用例及び第二引用例の各記載に基づき審決のいう操作〈1〉ないし操作〈4〉を行うことによって得られる直流電力送電システムにおいて、各「周波数変換装置」及び「整流装置」が具備する「サイリスタバルブ」ないし「スイッチング素子」がいずれも大電力用スイッチング素子であることも明らかである。したがって、第一引用例に記載された直流電力送電システムにおける「サイリスタバルブ」からなるスイッチング素子として、第三引用例に開示された静電誘導サイリスタを採用することは当業者は容易になし得ることである。

審決の操作〈5〉についての認定判断には誤りはない。

原告は、第三引用例には静電誘導サイリスタを大電力用のインバータ等のスイッチング素子として用いたときの効率についての値が示されていない旨主張するが、第三引用例には、静電誘導サイリスタを周波数変換装置等に用いることによって高能率化てきることか明記されているのであり、そこにいう「高能率化」とは変換効率が高くなることを意味するものであるから、静電誘導サイリスタの採用することによって九〇数パーセントの高い変換効率を得られることは当然に予測されるところである。また、受電側において高圧直流を直接商用周波数よりも高周波に変換することは当業者にとって容易になし得ることであること、並びに高耐圧下の通常のサイリスタの機能についての問題点もサイリスタ素子を多数個直並列に接続することによって解決し得ることはすてに認定説示したとおりであるから、これらの点から静電誘導サイリスタを採用することの困難性をいう原告の主張は採用できない。

6  取消事由5について

本願発明が、送電側及び受電側における変圧の前段階において商用交流電源よりも高い周波数に変換することにし、そのために静電誘導サイリスタを具備した周波数変換装置を設けるとともに、直流変換のための整流装置8と受電端において商用交流電力に変換するための周波数変換装置11に静電誘導サイリスタを採用したことによって、変圧器を小形化でき、周波数の変換効率が向上するという効果を奏するものであることは前1項において認定したとおりであるが、変圧器の小形化の効果は、審決のいう第一の技術的思想と前掲甲第一二号証(東京電機大学出版局発行「入門電気機器I」)に記載された周知の技術から容易に予想し得ることであり、また、周波数の変換効率の向上の効果の点も、静電誘導サイリスタを周波数変換装置等のスイッチング素子として採用することから予測される範囲を超えるものとは認められない。

したがって、本願発明の効果は、いすれも第一引用例ないし第三引用例に記載されたところから当業者が予測し得る範囲に止まるものといわさるを得ない。なお、原告は、本願発明が電力送電システム全体(線路長における損失の点をのそく)としても実用に適する高い送電効率を得ることができる旨主張するが、変圧器の小形化と変圧器の効率との関係は明らかでなく、変圧器の小形化との関係における変圧器の効率の改善の点を本願発明の効果とみることができないことは前1項で認定説示したとおりであり、また、前掲甲第五号証(全文訂正明細書)によって本願明細書を精査しても、本願発明が電力送電システム全体においても高い送電効率を得たものであることを認めるに足る記載はないのであるから、この点を本願発明の効果とみることはできない。

7  右のとおりであるから、本願発明は第一引用例ないし第三引用例に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものとした審決の認定判断は正当であり、審決には何ら違法の点はない。

四  以上のとおりであるから、審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないものとして、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松野嘉貞 裁判官 田中信義 裁判官 杉本正樹)

別紙図面一

〈省略〉

図面二

〈省略〉

図面三

〈省略〉

図面四

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例